イタリアのカテナチオに代表されるように、セリエAの強豪であるユベントスは「守備が非常にうまいチームである」と言えます。
17/18シーズンのスクデット(リーグ優勝)を懸けたナポリ戦において、ユベントスはこの試合を完璧に守り切って1-0で勝利を収めています。
ユベントスの守備が非常に堅いっていうのは誰でもイメージを持っていると思いますが、具体的にどの点が優れているのかはっきりわかる人は少ないはずです。
なかなかチームの守備を中心にサッカーを観ておられる方は少ないと思っています。
基本的にサッカー観戦ではボールの動きを目で追いかけることが多くなりますからね。
ボールを持ってない選手の動きの方が観ていて面白い、、、って感じで試合を観ている人っていうのはやっぱり少なくなってきます。
実はボールに関係ない何気ない動きの中にも(戦術的に)重要な意味が隠れてたりするので、そういうのに気付いたりすることが大事になってきます。
なかなか慣れるまでは試合から”読み取る”ことが非常に難しいんですが、それでも一つ一つのプレーを切り取って観察していけば見えてくるものがいっぱいあります。
結局はそれの繰り返し、、、となるんですが、今回の記事はユベントスの堅守が光ったナポリ戦の一部をピックアップして、ユベントスの守備の何がすごかったのか?について説明していきます。
”ボールを奪う”と”ゴールを守る”は別物
ユベントスの守備を説明する前にまずは”ボールを奪うこと”と”ゴールを守ること”はまったくの別物っていうことをしっかり理解する必要があります。
サッカーにおける守備というのは”ボールを奪いに行っていい時”と、”ゴールを守らなきゃいけない時”という風に分けて考える必要があります。
これはやってる本人(選手たち)にも非常に重要な概念でして、ここをしっかり線引きして味方選手同士できっちり意思統一ができていないとチーム内の動きがバラバラになりますからね。
それで基本的に守備っていうのは「ゴールを守る」ことから始まります。
当たり前ですが「ボールを奪い」に行く目的は、ボールを奪った後に自チームが”攻撃”をするためでして、守備の最優先事項は失点しないことです。
そして、ボールを奪いに行く行為というのは”失点しないことから考える”とかなりリスクを伴うことになります。
例えば、、、
ボールを奪うにはブロック(守備陣形)の中から味方の選手が1人(又は2人・3人と)飛び出していかなければなりません。
選手がブロックから飛び出したことによって守備陣形は崩れることになりますし、ゴール前を固めたり相手選手をマークする人数も減ることになります。
それによって、
などなど、失点する危険性が上がることになります。
さらに相手からボールを奪うためには相手選手へアプローチする必要があります。
当然のことながらピッチ”走る(スプリント)”ことになりスタミナをかなり消耗します。
試合を通して終始ボールを追いかけ続けるだけの体力があればいいんですが、なかなかそれは現実的ではありません。
”ボールを奪わないと攻撃が始まらない”のもまた事実なんですが、なんでもかんでも突っ込んでしまっては失点することが多くなってしまいます。
だから、”ボールを奪いに行く時”のリスクと”ゴールを守らなきゃいけない(奪いに行ってはいけない)”状況っていうのをそれぞれ正確に判断する必要があります。
そしてチームの戦術というのはこの部分をしっかり分けて考えてありますし、試合の状況(スコア)によっても変わってきます。
1点をリードしている状況であれば、”ゴールを守る”方に比重が行くことが多くなりますし、1点ビハインドでは”ボールを奪う”方に比重が行くことが多くなります。
どちらの状況になったにせよ「チーム内の意思統一がとても大切だ」と始めに書きましたが、実はこの意思統一というのが非常に難しいものなんです。
サッカーの試合ではピッチ内で全員が集まって相談する時間などありませんし、選手個人の思惑というのは結構バラバラになることが多いです。
(前線の選手はアグレッシブに行きたい傾向ですし、後ろの選手は堅くいきたくなることが多いです)
そんな中でなんとかチーム全員の認識をピッタリ一致させないといけないわけですから、ホントに大変なことなんです。
ただ、そのかなり難しい意思統一をユベントスというチームはハイレベルでこなしています。
そして、それがあるからこそ世界トップレベルの守備組織を形成することができているわけなんです。
そのユベントスの「ボールの奪い方」や「ゴールの守り方」についてこれから説明していきます。
ボールの奪い方
ユベントスがボールを奪いに行ってるシーンです。
このシーンではナポリが自陣からビルドアップを開始しているところになります。
シチュエーション的には0-0で試合が始まってしばらく経った状態となっています。
ボールを持っているのが、ナポリのクリバリ。
パスの出し所を探しています。
それに対して、ディバラがアプローチ。
ユベントス中盤の選手の配置を見てもらいたいんですが、みんなボールサイドに寄ってます。
この状況のユベントス側の狙いは「相手のボールをサイドに追い込む」ことにあります。
つまり、ボールの取りドコロをサイドに限定していてそこでの囲い込みをイメージしているわけです。
(だから、赤い線の方向に誘導したい)
そして、この場面でポイントになるのがFWイグアイン。
ナポリのクリバリはもっと広い逆サイドの右SBに展開するか、横パスで相方のCBに出したいところ(白い線のように)なんですが、、、
イグアインのポジショニングが絶妙でクリバリから2人に対するパスコースをかなり限定しています。
こちらが次のシーンでして、狙い通りにサイドにボールを誘導したところです。
この後、ドウグラス・コスタとディバラで相手のボールホルダーを挟み込みに行きます。
ちなみにナポリの中盤の選手が下に降りてきて並行でボールを貰おうとしていますが、それに対してもユベントスの中盤の選手がきっちり狙っています。
こんな感じでもともとナポリ陣内にいるユベントスの選手っていうのは”数的不利”だったわけなんですが、パスコースを限定しながらボールをサイドに追い込むことによって”数的同数”の状況を作り出しているわけです。
この状況さえ作ることができれば、自分達のボールにできる確率はかなり上がることになります。
そしてこれがかなり重要なんですが、
仮にここで空いてるスペースを使われて相手にボールを展開されたとしても、相手の陣地深くなんでそこまでの脅威にはならない、、、ということです。
ボールを奪いに行くにはリスクを伴いますが、そのリスクが相手陣内にボールがあることによって軽減されるというわけです。
ブロックを作るとき
今度は逆にボールを奪いに行かず、ゴールを守るためにブロックを作るときの話になります。
これはボールを奪いに行こうとしてた時とは逆に自陣に押し込まれた時に構える守り方になります。
一応、この試合のシチュエーションとしてはユベントスが先制して1点リードしている状態でした。
図を見てもらえたらわかりますけど、ユベントスのフィールドプレイヤー10人(左SBが入ってないけど)がボールサイドに対して非常にコンパクトに構えています。
それで「ボールを奪う時」と同じくサイドにボールが流れていますが、これに対してアプローチに行くのは1人だけです。
ディバラと一緒に挟み込みに行ったりはしません。
今まで書いてきましたが、この時の考え方としては「ゴールを守ること」が優先順位の一番上にきます。
それを達成するためにはブロックをコンパクトにして右サイドと中央のスペースを圧縮することの方が重要です。
そしてこの時ポイントは味方選手同士の距離間とそれぞれの位置関係となっています。
誰かがボールにアプローチに行って中のポジショニングがずれた場合には代わりにそのスペースを誰かが埋めます。
それでナポリは左サイドでボールを持っていますが、逆サイドには広大なスペースがあります。
なので、大きく逆サイドへ展開することも可能なんですが、それをやるとそのままユベントスの守備ブロックが逆サイドへスライドしていきます。
ボールを中央へ展開したときも同じとなり、そのまま全体が中央へスライドします。
よくサッカーの試合の解説で「連動した守備」という表現をされることがありますが、まさにユベントスの守備組織というのにその言葉がぴったり当てはまります。
相手陣内へ押し込んだ時
これは最後のシチュエーションです。
相手のGKがボールに絡むぐらい相手陣地深くまで全体が押し込んだ時にやる守り方となっています。
この時もユベントスはリードしてましたが、そのシチュエーションはあんまり関係ありません。
ナポリのGKレイナがボールを持っているところです。
ユベントスの前線の選手がかなり前に行ってます。
前にいるユベントスの選手はナポリの選手に対してインターセプトを狙える距離にいます。
「ボールを奪いに行く」時と同じような構え方になってますが、GKに対してはアプローチにいきませんので「半分ボールを奪いに行ってる」状態ってイメージですかね。
(ちなみにナポリも同じようにしますが、ナポリはGKまでアプローチに行きます)
これホントはユベントスの最終ラインを見せたかったんですが、いろいろな都合で入りませんでした。
見えない最終ラインではDFラインと中盤ラインが相当短い縦関係で網を張ってるような感じで配置されてました。
そうやって構えていると赤丸のような広いスペースができてますが、実際それはあんまり関係ありません。
この状況であそこのスペースにナポリの選手がいたとしても役に立たないからです。
GKレイナの位置から赤丸のところを浮き球のパスで狙ったとしても中央にいるディバラあたりに引っかかります。
それにこの位置でボールロストすると失点する可能性がかなり高いので普通はそんな危険は冒せません。
試合運びがうまい
よく試合運びがうまいチームとかゲームをまとめられるチームとかって言われたりしますけど、そういうチームっていうのは今まで書いた「ボールを奪う時」、「ゴールを守る」の使い分けがうまいチームになります。
ユベントスは1点リードしてて逃げ切りを図りたいときには「ゴールを守る」に比重がかなりかかっていました。
当たり前なんですがこの部分がチームで共有できてないと、前線の選手はボールを奪いに行き、後ろの選手はブロックを作り、、、みたいな感じになってしまいチームの守備にスキができてしまいます。
まあ、よく日本代表がロシアW杯のアジア最終予選で先制しておきながら同点に追いつかれたりしてたのはこの部分も関係があると僕は考えています。
攻守にバランスの取れたいいチーム、試合運びがうまいチーム、っていうのはここの比重の動かし方がチーム全体の共通認識としてありますし状況判断も非常にうまいです。
日本人は協調性があるから組織力とか連携は世界レベル、、、ってホントにそうですか???
世界トップレベルのチームに勝てないのはホントに「個の力」が原因でしょうか???
僕がこの記事で書いたことって日本のチームはできてますか???