グアルディオラ監督の戦術、バルセロナのティキ・タカ、そしてメッシのゼロトップ

グアルディオラ監督の戦術、バルセロナのティキ・タカ、そしてメッシのゼロトップ


この記事では現役監督の中で一番人気があるであろうグアルディオラ監督(ペップ)の戦術をテーマにしています。

なかなか彼のサッカー哲学を理解するのは難しいですし、説明する方も大変なんですが、今回はグアルディオラのサッカー戦術について、バルセロナ時代をベースに説明していきます。

トータルフットボール


彼のサッカー戦術の源流にはバルセロナへクライフが伝えたことで有名な「トータルフットボール」というものがあります。
(トータルフットボールについてはこちら

もともとグアルディオラは選手としてクライフ監督時代のバルセロナ(いわゆるドリームチーム)に所属しておりました。

そしてグアルディオラはクライフサッカーの伝承者となり、クライフが目指していたサッカーを完成させた監督でもあります。

ティキタカ

意味するところ

「ティキタカ」はグアルディオラ監督がバルセロナ時代に実践した戦い方を表現した言葉になります。
(実際は古くからスペインで使われていた言葉のようですが、ペップバルサのサッカーによって一気に有名になりました)

このティキタカは”ハイレベルなショートパスの組み立てによる攻撃やそれに関係するオフザボールの選手達の連動した動き”によって生み出されます。

ショートパスの正確性はもちろん、ボールを持っていない選手たちの動きによって常に複数のパスコースを用意していることが必要です。

それ以外にも

    パススピードの速さ

    スペースの認知

    ボールを奪われてからのプレッシング

などが高いレベルで実行される必要があります。

メリット

そして、このティキタカの一番の効果は”相手にボールが渡らないこと”にあります。

サッカーという競技の特性上、相手にボールを奪われない限りはずっと自分達が攻撃することができます。

それは裏を返せば「ボールを奪われない限り、自分達のゴールが脅かされることはない(失点しにくい)」という意味にもなってきます。

つまり、攻撃的な戦術であるように聞こえるティキタカなんですが、実際のところはこの戦術を用いたチームの失点数はかなり少なくなる傾向があります。

この戦術で有名なスペイン代表は南アフリカW杯で優勝したとき、大会を通してわずか”2失点”しかしておりません。
(しかも決勝トーナメント以降はすべて1-0で勝ち上がっています)

攻撃の効果は少ない

むしろ、攻撃面におけるティキタカのメリットはほとんどありません。

なぜなら基本的に相手ゴール前にスペースがないからです。

相手にゴール前を固められ、狭い空間の中を割ってボールを相手ゴールまで運ぶことは相当難しい仕事なのです。

本来、得点効率だけを考えるのであれば堅守速攻に代表されるようなカウンターサッカーが有効です。

しかし、相手を押し込んだ状態で自分達がボールを支配することができれば失点しにくくなるのもまた事実です。

プレッシングを無効化する

ヨハン・クライフ

グアルディオラ監督のバルセロナはクライフ時代のバルセロナの影響を受けています。

そして、クライフ監督はオランダで生まれたトータルフットボールという考え方の”パスワーク”を特化させたチーム作りを目指しました。

クライフ自身が目指したサッカーの最終形がどんなものだったのか?は不明ですが「完璧なパスワークの前ではプレッシングは無力だ」と言っていたように、プレッシング戦術に対抗するためのチーム作りを目指していたように思えます。

プレッシング理論が主流だが

現代サッカーでもプレッシングをもとにした戦術は主流になっています。

基本的にハードワーク(体力)とプレッシング(守備)を組み合わせた戦い方なんですが、クライフの意思を継いだグアルディオラのバルセロナはそのプレッシング戦術を次々に打ち破っていくことになります。

バルセロナのパスワークは相手のゾーンのわずかな隙間に正確なパスを通し、そしてボールホルダーへ相手選手が密集してくる前にボールを他の場所に展開することが可能でした。

これが繰り返されることによって徐々に相手チームの”体力”を奪っていきます。

そして、プレッシング”そのもの”の精度が低下していき、ボールを奪いに行こうとすればするほど、よりバルセロナに守備ブロックを崩されてしまうことになる、、、

そういった現象が起きてしまいます。

ロンド

バルセロナのパスワークは日本でもサッカーの練習をするときによくやる「鳥かご(向こうではロンド)」を実践レベルで完璧にやっていたものです。

ロンドの重要性というのはどこのチームも理解していますし、練習でも実践していますがピッチ上でそれと同じことをやるのは全くの別物です。

なぜならピッチに合わせて選手同士の距離間が広がってしまうからです。

それぞれの距離が遠くなった分

    ・味方選手がパスミスをしやすくなったり
    ・相手にインターセプトを狙われたり
    ・パスの出しところが無くなりプレスを受けてしまったり

こういった現象が起こってしまいます。

実践するのは難しい

したがって、なかなか意識をしていたとしても、そもそも”ポゼッションを高める”ってこと自体が非常に難しいことなのです。

でも、バルセロナの戦い方っていうのは上に書いた”ロンド”を試合レベルでも(距離感を広げず)そのまま展開することによって、ポゼッションを高める戦い方に成功います。

ロンドをそのまま試合レベルで実行するには、トラップの正確性やパスの精度、状況を正しく判断するための広い視野や的確なポジショニングなど、求められるスキルが数多くあります。

その辺の事情を考えると、チームレベルでも高い技術力を備えているバルセロナだったからこそ可能な戦い方だった、、、と言えるわけなんです。

メッシのゼロトップ

メッシの存在

ティキタカとは別に、この時のバルセロナにはもう一つ特徴があります。

それはメッシを”偽9番”として配置した、いわゆるゼロトップという布陣です。

ゼロトップ自体はスパレッティ時代のローマ(トッティが偽9番)だったり、日本代表では南アフリカW杯で本田が偽9番的な仕事をやってたりもしましたし(これは微妙かもしれませんけど)、特に真新しいことはありません。
(はるか昔、古豪ハンガリーの”マジックマジャール”でもプスカシュが偽9番やってます)

偽9番は本来CFが入るべき場所にもともとMFとかWGの選手を配置することにより、攻撃のやり方(ビルドアップ)に変化を加えることが目的です。

そして、その最大の特徴はその選手のポジショニングにあります。

偽9番のメリット

従来のCFであればビルドアップの時に相手2CBの目の前にいることが多いですが、偽9番の場合は味方のボールを引き出しにワイドに流れていたり、中盤まで下がるような動きが加わってきます。

つまりは特定のエリアに固執せず、相手陣内のいたるところに顔を出すようになるわけです。

そして、そういった動きをすることによってもともと自分がいた場所に広いスペースが生まれることになります。
(自分の動きにマーカーが釣られることによってもスペースが生まれます)

偽9番がもともといた場所というのは相手CBの前のスペース(いわゆるバイタルエリア)です。

この空いたバイタルエリアにサイドの選手や中盤の選手がタイミングを見計らって侵入してくることにより、ゴールに直結するようなチャンスメイクをすることが可能になるわけです。

メッシは特別

相手の堅い守備ブロックを攻略するためにどうやってバイタルエリアにスペースを作り出すか?ということを解決するために生まれたのが偽9番(ゼロトップ)という考え方なんですが、実はメッシのゼロトップは少し意味合いが違ってきます。

メッシの特徴は何と言ってもドリブル突破です。

細かいタッチから繰り出される高速ドリブルにはほとんどの選手が対応できません。

しかし、そんなメッシのドリブルも”スペースがないことには本来の威力を発揮する”ことにはなりません。

メッシのゼロトップとは後々に自分がドリブル突破を狙うためのスペースを、自分が偽9番としてサイドに流れる動きをすることによって作り上げることに目的がありました。

つまり、最終的に自分がドリブルで使うためのスペースを作り出すために偽9番をやっていたわけですね。

サイドや低い位置でボールを受けたメッシがそのスペースを目掛けてドリブルをしたり、ワンツーを駆使しながらそのエリアに侵入したり、そういった動きを繰り返すことによりメッシは得点を量産しました。

ゼロトップの効果

ティキタカの戦術と合わせてこのメッシの動きがペップバルセロナの特徴です。

グアルディオラ就任初年度のバルセロナはリーグ戦・コパデルレイ・チャンピオンズリーグの3冠を達成するなど、最高の成績を残しています。
(リーグ戦はそれから3連覇しています)

しかし、時間が経つにつれて対戦相手に研究されたり、中盤の選手の能力低下(チャビの年齢によるパフォーマンス低下)などもあって、チームのパフォーマンスはどんどん落ちていくことになります。

結局、グアルディオラ監督はバルセロナを4シーズン率いることになったわけなんですが、ここでのインパクトや戦績というものがグアルディオラ監督の手腕を世界中に知らしめることになりました。

現在はマンチェスター・シティの監督となっていますが、やっているサッカーはバルセロナ時代とまったく違います。
こちらは現在進行形ですから、今後どういったサッカーを魅せてくれるのか楽しみですね。

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