シメオネ監督が率いるアトレティコ・マドリードが採用している戦い方は「堅守速攻」です。
そして、クロップ監督がドルトムント時代から実践している戦術が「ゲーゲンプレス」になります。
実は両方ともプレッシング理論が派生したものになってます。
ちなみにシティを率いているグアルディオラ監督はまったく違う戦術をとっています。
(あちらはポゼッションというかポジショニングが考え方のコンセプトにあります)
ともにプレッシング理論から派生したにもかかわらず、全く別の見方をされている「堅守速攻」と「ゲーゲンプレス」。
相手ゴールまでの距離が違うので攻撃の部分ではかなり異なった展開となりますが、チーム作りの根底にある考え方は結構似ています。
ただ、そのブロックが”前方”に位置しているのか?、”後方”に位置しているのか?、が違ってくるだけです。
リスクを冒すことについて消極的か?積極的か?っていう違いがあるにしても、基本的にはサッカーを「ボールを保持していない状態」から考えているのが2人の監督です。
ゲーゲンプレスっていうネーミングですから堅守速攻という名前に比べると複雑なことをやっているように聞こえてしまいます。
しかし、実際は共通する部分が多い考え方なのです。
シメオネの戦術
シメオネの戦術といえばアトレティコで用いている堅守速攻の戦い方です。
ちなみにこれはレアルやバルセロナに対抗するために生まれた戦術であるともいえます。
高いインテンシティ(激しさ、強烈さ、真剣さ)を求める戦術であり、さながらアルゼンチンに代表される「アンチフットボール」と考え方が似ているところもあります。
サッカーは基本的に得点が入りにくく・失点しにくい特性があります。
そのため、
ことにより、かなり効率的(合理的)なサッカーを展開することができます。
アルゼンチン人であるシメオネ自身は勝負に対するこだわりがすごく高いです。
現役時代からそうであったように「魅せる」よりも「勝つ」ことにこだわる代表的な監督だと言えます。
そして、守備ブロックの作り方に関してはクロップ監督が使用しているゲーゲンプレスと非常に似たものになります。
シメオネの場合はディフェンスラインかなり低く設定されることになりますが、非常にコンパクトな守備ブロックという点では同じです。
双方ともゾーンディフェンスがベースとなっておりますし、ボールの動きに合わせて全体がスライドしていくのも共通しています。
だから、以前の記事リバプール対アトレティコで書いた時のように、それぞれが似た陣形を取るので双方が戦った場合には試合が膠着しやすくなります。
どちらかといえば、勝つことよりも負けないことに重心を置いているのが堅守速攻の戦い方です。
それを世界トップレベルの水準で披露しているのがアトレティコ・マドリードというチームであり、シメオネ監督の戦術であるわけです。
そして、この戦術はどの強豪チームに対しても有効になり得ます。
だからこそ、タレント力では劣るシメオネのアトレティコがラリーガを制覇することができたわけですし、毎年チャンピオンズリーグにも出場できているわけです。
ゲーゲンプレスについて
「ゲーゲンプレス」っていうのを日本語でわかるように書くと、「反カウンター」とかそういった言葉になります。
(単なるプレッシングだったら、わざわざ「ゲーゲン」とかつけませんね)
もうちょっと具体的に言うと、「自チームがカウンターを受けそうになった状態での」相手チームへかけるプレッシングってことになります。
(これでもイメージしにくいかもしれません)
クロップがドルトムント時代にはこの戦い方がいろんなチームにハマったことで、マイスターシャーレを獲得することに成功しています。
その成功によって有名になった戦術といえます。
サッカーって「攻守の切替時間」がものすごく重要です。
それが速いか遅いかで、得点する・失点する可能性が変わります。
現代サッカーの得点の多くは「相手からボールを奪って10秒以内」に決まると言われているぐらいですからね。
基本的に相手が前がかりになればなるほど守備をするときの対応が遅れますので、自分達が攻撃するチャンスが増えます。
(相手が守備陣形を整えるまで時間がかかってしまうですね)
これがいわゆるカウンター戦術の基本的な考え方なんですが、今となってはカウンター戦術っていうのはどのチームにも浸透しています。
そして、どんなチームでも効果的にカウンターを狙えるような戦術・戦略を研究しています。
そういった状況の中で戦術的に求められるようになってきたのは「自チームがカウンターを受けたときにいかにして守るか?」という部分です。
その部分を試行錯誤して生まれたのが、クロップ監督が用いたゲーゲンプレスという戦術になります。
結局、ゲーゲンプレスっていうのは”カウンターに対するカウンター戦術”のことです。
自チームがカウンターを受けそうになる瞬間に相手チームに猛烈にプレッシングを仕掛けるっていうことにポイントがあります。
カウンターを仕掛けようとするタイミングでは早く攻撃することに意識がいってしまいます。
そのため全員の意識が前方に向くことになりますし、守備ブロックを解いている(解こうとする)ため全体的にスペースが生まれてしまうことになります。
そのままスムーズにカウンターが成功すれば(フィニッシュまで持っていければ)何も問題ありませんが、中途半端な位置でボールロストしてしまうと相手に広大なスペースをあげてしまう事態になりかねません。
つまり、
になるということです。
サッカーは攻撃と守備が連動しているからこそのものなんですが、これを戦術的に機能させたのがクロップであり、ドルトムントというチームであったわけなんです。
ゲーゲンプレスの威力
今や世界最強(ハゲ)監督であると言われているジョゼップ・グアルディオラ。
「そんなこと言われなくてもわかってるよ」って感じでしょうし、いろんなタイトルを複数のチームで獲得しています。
そういった名声や様々なタイトルを獲得するためには当然いろんな難しい試合に勝たなきゃいけないわけですし、実際にそれを現在進行形で実現しているホントにすごいお方です。
僕はブログを始めてガッツリ海外サッカーを観るようになってから彼(ペップ)のことは好きになりました。
ホントに頭のいい方ですし、シティのサッカーっていうのは観ていてホントに感動します。
とりあえず今のシティはめっちゃ強いですしね。
とはいえ、そんなペップ監督にも唯一負け越している監督が存在しています。
それが実はゲーゲンプレスを主体にした戦術を展開しているクロップ監督なんです。
ペップとはブンデスリーガでドルトムントの指揮を執っていた時代から対決しておりますし、その頃からの通算成績でペップ監督に勝ち越しています。
ペップとクロップのスタイル
グアルディオラ監督が展開するサッカーっていうのは、最近よくキーワードで出てくる「ポジショナルプレー」っていうものがポイントになってきます。
ものすごくざっくり言うと、”ポジショニングサッカー”みたいなノリです。
これはもともとチェスとかテーブルゲームで用いられてた概念だそうで、それをピッチにいる選手を駒に見立ててサッカー戦術として応用している感じですね。
数的・質的・位置的、それぞれで相手より優位に立てるような陣形(ポジショニング)を構築する(考える)ものなんですけど、一言で表すにはちょっと難しい考え方になってきます。
とりあえずはボールを持っている・いないにかかわらず、陣形そのものを重視するイメージです。
守備の時にはゾーンディフェンスでブロックを形成するので、その時のポジショニングが大事になってきますし、ビルドアップでパスワークを展開している時も、実はボールを回しながら個々の選手たちが自分達に有利な陣形を整ていることにもなっています。
要するにチーム全体で陣形を整えたり、ある種の静寂や秩序を保とうとするのがペップのサッカーのコンセプトになります。
いったん、その秩序の中に相手チームが入ってしまえば、、、もう何もできなくなっちゃう感じですし、試合の主導権を完全に握ることができます。
そして、クロップ監督は言ってみればそれと真逆の戦い方をやっています。
そもそもペップのスタイルのようにビルドアップをそこまで丁寧にしませんし、むしろ意図的に相手陣内の深い位置で中立なボール(どっちがボールを保持しているのかわからない状態)を作り出し、そこでのボールの奪い合いを制すことで得点チャンスを狙っていくスタイルになってきます。
結局、これは相手がロングカウンターを仕掛けるタイミングでもあるわけなんですが、そこの出鼻を挫いて自分達のボールにすることができれば、ショートカウンターから効率的にゴールを仕留めることができるわけです。
要するにクロップのコンセプトは相手陣内における「喧噪・混沌」なんですよね。
そこから活路を見出そうとするのが彼のサッカーになります。
(実際は球際の激しさなんかも要求されますし、ボールを追いかけまわす根性や技術も必要です)
ペップが「静寂・秩序」なら、クロップは「喧噪・混沌」なのでまさに真逆のサッカーになります。
どちらの戦術が優れているのか?は理論的に説明するのは不可能ですが、結果的にクロップ監督のゲーゲンプレスの方が優秀になっています。
普通のチームが相手なら”自分達の秩序”の中に抑え込むことができますけど、真反対にいてその秩序を荒らしまくってくるリバプールは苦手っていった感じでしょうかね。
日本はプレッシングにこだわれ!
グアルディオラ監督のようなポジションサッカーも強力なんですが、現在サッカーの主流はプレッシング理論だと僕は考えています。
”いかに有利な位置までボールを繋ぐか?”よりも”いかに有利な位置でボールを奪うか?”を考えている戦術家の方が圧倒的に多いですしね。
そんな中、日本代表の試合とかで解説を聞いていると、言ってるのは「どうやってボールを回すのか?どうやって展開するのか?どうやってシュートまでもっていくのか?」こういう言葉ばかりです。
これが悪いことではありませんが、世界は「どうやってプレッシングをかけるのか」を考えているときに、上記のことを考えていても、正直焦点がズレているようにしか思えません。
今の日本代表が理想にしているのはたぶんグアルディオラ監督がやっているサッカーの形でしょう。
でも、そのグアルディオラ監督もクロップ監督のプレッシング戦術には”勝てていないん”です。
その結果にこそ、日本サッカー発展のヒントが隠れていると思いませんか?