今回はVARが運用されるようになった理由について書いていきます。
まず、VARっていうのはビデオアシスタントレフェリー~Video Assistant Referee~制度のことを指しています。
直近ではロシアW杯で運用されておりますし、欧州主要リーグでも普通に活用されているシステムとなります。

サッカーの試合(ピッチ)には主審・副審(2人)と第4の審判がいます。
彼らはサッカーのルールに則り公平なジャッジを心掛けているわけなんですが、それでも人間なので時にはミスを冒してしまいます。
VAR制度っていうのはそういったレフェリへーのサポートを目的としたシステムで、国際大会ではコンフェデ2017で初めて導入されたものになります。

それで17/18シーズンにおいてはセリエAとブンデスリーガでVAR制度が運用されるようになってますし、18/19シーズンではラリーガもこのシステムを導入しています。
(近々、プレミアリーグやJリーグ、CLなどでも運用される予定となっています)

そんなわけでこれからVAR制度の説明をしつつ、その必要性について触れていきます。

VAR制度について


VARと呼ばれる立場の人は1試合につき2人います。
彼らは試合が行われているピッチ上にはおらず、別の場所でモニターチェックをしています。
試合中にジャッジが際どかったり、難しかったりするシーンに遭遇した場合はその都度彼らが”ビデオレビュー”を行っています。

それでその”レビューの結果”と”試合中の主審の判定とに”もちろん差は出ますが、それをいちいち報告しているわけではありません。
VARの介入においては「試合展開を左右するような状況において、”明確な誤審”が認められた時」と限定しています。
つまりは試合に影響がない範囲の誤審については”基本的にスルー”するというスタンスとなります。

基本的なVARの考え方は以上となります。
結構シンプルなシステムなんですが、試合展開を左右してしまうパワーは持っています。

できるだけフェアな試合をやってもらいたいという願いから生まれたシステムなんですが、もう少しその部分を深堀していきます。

レフェリーのしんどさ


サッカーを経験していた方やそれなりにサッカーの試合を観続けている方にはわかってもらえると思いますが、サッカーにおけるレフェリングってかなり難しいです。
誤審なんて細かいものを入れればそこそこありますし、選手や監督も自分たちに不利な判定になったとたん、騒いだりするわけです。
ひどい誤審をすると、それが原因で試合の結果が決まっちゃうことも十分あり得ます。

それにそうやって試合が決まってしまった日には、メディアも含めて相当騒がれてしまうのでレフェリーにかかってくるストレスやプレッシャーっていうのは計り知れないものになります。
そのストレスやプレッシャーを跳ね除けるだけでも十分大変なのに、レフェリングでの難しさもプラスされてきます。

サッカー選手は22人いますが基本的にそれを3人(主審+副審2人)でジャッジしています。
基本的にサッカーの試合はボールが中心となって動きますので全員を見る必要はないわけなんですが、当然のことながらボールは追いかけないといけません。
サッカーは基本的に展開が早くてボールもよく動くのでそれに合わせて審判もピッチ内走り回る必要があります。

そして走り回らなきゃいけないのは試合が終了するまで(90分以上)です。
サッカーのレフェリングは繊細な判定も多くなりますから、かなりの集中力を要求されます。
元気な時には良くても、終盤になって疲れてきたときにも同じレベルの集中を保たなきゃいけないのはかなり大変です。

実際に審判のライセンスを取るには持久力のテストもあります。
まずは走れないと話にならないわけです。
まあ、審査員とか審判が動き回る競技ナンバーワンはサッカーだと言ってもいいぐらいですね。
ちなみに審判が走り回る範囲は↓の図みたいな感じです。

審判範囲

レフェリングの難しさ


レフェリーはボールを追いかけながらジャッジをするわけですが、ホイホイとボールに近づいていいわけではありません。
基本的にボールの周りには選手が密集しているし、近づきすぎると選手たちのプレーを妨害してしまうことになります。
だから、

  • ボールの動きは追いかける
  • しかし、近づきすぎない
  • それでもボールがよく見える位置へ常にいる
  • っていうかなり繊細なポジショニングが要求されます。

    サッカーのプレーっていうのは途切れることが少ない(休憩時間がない)ので、かなり長い時間集中が必要だったりもします。
    気を抜いていたら、まったく見てなくて、誰かが痛がっていた、、、なんてこと、僕は主審をやってた時にはよくやらかしてましたw

    まあ、そもそも審判も人間なので物理的に見えないことなんてよくあります。
    それでも、副審もいるのである程度は相互で確認することは可能ですが見えないもんは見えません。
    ホントにわからないときはカンとか雰囲気でジャッジしている人も実際は結構いるはずです。

    裁量が必要


    それに付け加えていうなら、ファウルの判定自体が結構あいまいなこともあります。
    レフェリングする人の考え方によっては同じプレーであってもファールになったり、ならなかったりします。

    例えば、相手にボールを保持されている状態(ドリブルしている)に、そのボールを取りに行くためにショルダータックルすることはルール上問題ありません。
    仮にそのタックルで相手を倒してしまってもファールにはなりません。
    ただ、ボールに行かずに相手をタックルで倒してしまうとファールになります。

    明らかに”ボールに行っていない”場合であれば誰がレフェリーであってもはっきりとファールを取ることになりますが、「今のタックルはボールにチャレンジしていたのかどうか?」っていう微妙なシーンは結構あります。
    結局、ボールに行ってる・行ってないの判断が人によってバラバラになってしまう感じです。

    それ以外にも(当たり前ですが)サッカーはGK以外のフィールドプレイヤーは手を使ってはいけません。
    これはボールに対してもなんですけど、相手選手を手で押したり、ユニフォームを掴んだりしてもいけません。
    でも、テレビで試合を見ているとみんな手を使いまくってますよね?
    つまりは、この部分も審判の裁量で判断されているわけなんです。
    あからさまに相手を手でつかみまくっていると、さすがにファールになりますが微妙なものなんてのはいっぱいあります。

    他にもありますけど、例えばボールに対して「手は使ってはいけないけど、肩はオッケー」みたいなやつ。
    どこからが肩やねん!」って感じで、この辺もあいまいなジャッジが多くなってます。

    こういったシチュエーションが90分間通してかなりの頻度で発生するわけです。
    これで毎回「フェアなジャッジをしろ」っていうのがかなり無理な話だと思いませんか?
    ある意味サッカーと誤審はセットみたいなものなのです。
    誤審がない試合なんてものがそもそも存在しません。

    オフサイド


    サッカーのレフェリングで忘れてはいけないのがこのオフサイドです。
    試合でよくあるのが一度はゴールが決まったかのように見えたが、シュートを打つ前にオフサイドになっていたため、それで判定は覆り、結局はノーゴールになった、、、こういうシーンです。

    相手チームのGKを除いたフィールドプレイヤーの中で、相手陣地の一番深いところにいる選手を基準に「オフサイドライン」というものが水平に存在します。
    (実際に線が引かれているわけではありませんし、例外もあるんですが今回は省略します)
    自チームの選手が相手チームのオフサイドラインを越えて、相手陣地のより深いところにいたとします。
    この状態になっている選手は「オフサイドポジションにいる」という状況になります。
    (下の図のようなイメージになります)

    オフサイド

    注意すべきはこの時点では、オフサイドになっていないということです。
    「オフサイドポジション」にいる選手に対して、味方選手がパスを出して、「オフサイドポジション」にいる選手がそのパスに反応した(又はプレーに関与した)場合に、オフサイドの判定となります。
    そんな感じでオフサイドとなった時点で、相手チームのフリーキックになります、、、が。

    実はこの「オフサイドポジション」にいたかどうかを判定するのが非常に難しいんです。
    ついでに判定が微妙な時って、実はゴールチャンスなことが多いので、そういうことも重なってもめることが多くなってしまいます。

    オフサイドの判定は基本的に副審がやる


    主審のほかに副審が2人いますが、この人たちの主な任務はこのオフサイドを判定することになります。
    (スローインとかコーナーキックも見ますけど)
    下のイメージを見てもらうと、副審がハーフェイラインを境に2つに分かれていることがわかります。

    審判範囲

    サッカーの試合は2チームでの対戦ですから、副審はハーフェイラインを境にして、それぞれのチームを担当してオフサイドを見ている感じになります。

    それで対象となる選手が「オフサイドポジション」にいるかどうかをきっちり見ようと思うと、そもそも「オフサイドライン」を正しく把握していないといけません。
    その「オフサイドライン」正しく把握するためには、その基準となる選手と同じ位置(同じ深さ)から見るしかありません。
    これがかなり至難の業なんです。
    基本的にそのチームの「オフサイドライン」になるのはセンターバックであることが多いんですが、つまりはこのセンターバックと並行して走らないといけない状況になります。

    つまり、副審が同時にやらないといけないことを書いていくと、、、

  • 常に動く「オフサイドライン」を正確に把握しつつ
  • 「オフサイドポジション」にいる選手に注意を払い
  • 相手チームがその選手にパスを出すのかどうかを注視する
  • こんな感じです。
    そして、実際にパスが出されてプレーに関与したことが認めらたら、副審が旗をあげて主審がオフサイドの反則を取るっことになります。
    ↑の3つの動作のうち、どれか一つでもずれてしまうと、オフサイドを間違えてしまうことになります。

    僕の経験上、特にオフサイドラインを正確に把握するのが一番難しいと思っています。
    副審の体の向きというか、見る角度がずれるとオフサイドラインもズレてしまいますからね。
    下の図がそのイメージです。

    誤審

    ちなみに、僕も昔副審やってた時はよく混乱していました。

    それに試合をしている選手達もオフサイドをかなり意識しています。
    僕が見た位置からだと、ギリギリオフサイドではなかったので旗をあげなかったんですが、試合中の選手はオフサイドをとれたと思い込んでるので「オフサイドやろー!!」って、よく叫ばれてたことがあります。
    (とはいえ、こんなもんはシカトするんですけどねw)

    VARの効果


    これまで主審や副審のレフェリングの難しさに触れてきました。
    どれだけ頑張ったとしても”誤審”というものは少なからず起きてしまいます。

    それでも試合を結果を左右してしまうような「重要な判定」では誤審が起きないようにしたいところです。
    ここでいう重要な判定っていうのは、、、

  • 選手の退場にかかわること
  • ゴールの判定にかかわること
  • ペナルティエリア内での判定
  • などが挙げられます。

    これらの判定でもし誤審があった場合には試合に対する影響がかなり大きくなってしまいます。
    だから、この部分だけでもなんとかフェアなレフェリングを担保したり、レフェリーの負担を減らすことができないか?っていう考えがあったからこそVAR制度が登場してきたわけです。
    もし万が一に重大な誤審があった場合に、それを指摘してくれるVARの存在っていうのはレフェリーにとって非常にありがたいものとなります。

    特にオフサイドは見逃しがあったり、副審の立ち位置が悪くて正確に判断できなかったりすることがよくあります。

  • 常に動く「オフサイドライン」を正確に把握しつつ
  • 「オフサイドポジション」にいる選手に注意を払い
  • 相手チームがその選手にパスを出すのかどうかを注視する
  • この3つを同時進行で把握しないといけません。

    ボールスピードや試合展開によってはかなり難しいこともありますし、誤審しそうな場面というのは頻繁に起こります。
    オフサイドは「パスが出たタイミングでどういう状況になっていたか?」が重要なわけなので、、、
    別の場所でビデオを巻き戻しながら、VARがその状況を確認してくれているのは非常に大きいことになります。

    実際、コンフェデ2017ではゴールが入ったにもかかわらず、VARが介入し、その直前のプレーにオフサイドがあったとしてノーゴールになったシーンが何回かありました。
    まあ、誤審を回避できたわけですから、一応の成果を上げることには成功した形にはなってます。

    ビデオも万能ではない


    ビデオカメラの映像っていうのは万能ではないんですよね。
    基本的には固定された位置で映像を撮ってます。
    つまり、カメラは「オフサイドライン」の選手と並行しているわけではありません。
    そういう意味で言うと、厳密にはオフサイドラインを正しく判断することはできない、、、とも言えます。

    ただ、それでも目安となるものはあります。
    ↓のイメージでいうと、芝の色が若干違っているのがわかるとおもいます。

    グラウンド

    色が変わる境目って、線になっているように見えるはずです。
    この境目は大体ハーフェイラインと並行なので、「オフサイドライン」をまっすぐ見るための補助になります。
    (ハーフェイラインはオフサイドの基準となりますし、副審はこの角度を事前にチェックしておく必要があります)
    まあ、↑の画像では縦方向の線なので役に立ちませんけどね。
    (イメージをわかってもらうために載せてます)

    やっぱり好きになれないVAR


    フェアプレーとか審判側からの目線で言うとVAR制度は非常に有効ですし、主審・副審のプレッシャーやストレス軽減に大いに役立ちます。

    とはいえ、試合をしている選手だったり、その試合を観ている観客だったり、、、からしても、有用なものかどうかは別の話になってきます。
    というのも、VARが介入して主審にコンタクトをとっている時というのは試合が止まります。
    それで状況にもよりますが、この止まってる時間がかなーーーーーり長く感じます。
    (徐々にマシになってきてはいますけど)

    何の審議をしているのかがわからないときもあり、観客の頭の中は「???」となります。
    本格的に運用されだしたコンフェデ2017ではゴールが決まった時も、毎回ではないんですが「きわどいゴールはビデオ判定で審議します」みたいな雰囲気になってました。
    止まる時間も微妙に長くて、それなりに回数も多かったこともあって個人的にはいい印象が持てなかったですね。

    とりあえず、この「間」がすごく嫌なんですよ。
    観ている方でもかなり嫌なのに、たぶんやってる選手はもっと嫌だと思います。
    特に自分達のゴールを取り消される審議とかされてたら、心臓にめちゃ悪いです。

    サッカーって、雰囲気とか流れがすごく重要なスポーツだと思っています。
    雰囲気がいいチームのサッカーには勢いがありますし、ホームスタジアムだと観客の声援が乗っかって、さらに勢いを増したりするところも面白さの一つだと思ってます。
    しばらくの間プレーが切れちゃうと、試合の流れが切れることになりますし、そのチームの勢いを殺しかねません。

    そういったサッカーの楽しみである「雰囲気と流れ」をぶち壊しかねないのが、VAR制度っていう結論に僕の中ではなっています。
    試合の展開が流動的で一瞬の変化を楽しむスポーツであるサッカーにとってはビデオ判定というものはマッチしてないのかもしれません。
    (これまで長々と審判の苦労やVAR制度の有用性について書いてきましたけどw)